作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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【書評】しのびよる破局


辺見庸著「しのびよる破局」を読みました。

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著者のことは、大昔に「もの食う人びと」を読んだことがあるので知っていました。

昨今の市場原理主義、資本主義経済の中、人間的な価値が低下し社会が荒んできていると指摘します。
そのことを秋葉原事件を通して考察し、これから大きな破局が訪れるのではないかと危惧しています。

そんな「昔はよかった」的な批判だけなら単に60を過ぎた老人の戯言だと一蹴することもできますが、世界各地で様々な民族と出会い、貧困の現実や、ぎりぎりの状態で生きている実際を目の当たりにしてきた著者が発するメッセージにはそれなりの重みがあります。
そして2004年に脳出血、その後もガンを患い肢体が不自由となり、死への行列に並び始めたとの自覚が、生きているうちにできるだけメッセージを発し続けたいとの思いをより強くします。

過去、通信社の特派員時代に、中国とベトナムの国境から、日本への電話回線の空きを待つために6時間も待ち続けた、そんな徒労にも似たゆっくりとした時間の流れを経験した時代からすると、今の情報化社会はとてもめまぐるしく映るのかも知れません。
機能不全に陥った現代社会から見える、しのびよる破局は著者には見えているんだろうと思います。しかし、まだそこまで長く生きていない僕は、そこまでの実感は湧かなかったというのが実際の感想です。

即時的に反応しないといけない脊髄反射社会の中にあっても、人間的な思考は忘れてはいけない。無駄とも言える時間が生まれるかもしれないが、熟考できる十分な時間をもって、人間的な営みを取り戻すべきだというのはとてもよく分かります。昨日紹介した「不透明な時代を見抜く「統計思考力」」でも思いましたが、ここでも自分で考えたり想ったりすることの大切さを改めて感じました。

人間とは何か。人間とはどうあるべきか。これは本当にあくびがでるぐらいつまらない疑問かも知れないけれども、じつは自明ではない。2009年になっても、昔より全然わかっていないのではないかとおもう。むしろ、旧約聖書の時代のほうが、人智というものの驕(おご)りとか、その驕りを戒めたりする人間の内省の気持ち、自省の気持ちというもの、哲学というのもがあったのではないかとおもうのです。いまはそれがない。少なくとも決定的に欠けている。それが、とても不幸なことではないかと思います。
世界と他者について反復して思索して、想いを深めていくということは、人間的な行為です。それには無駄なような、とても悠長な、つまり、徒労にも似た時間と空間が必要なのです。それをいまの世界はお金に置きかえているのではないかという気がする。効率で人間世界を見ている。非効率を徹底的に蔑視し排除しようとする。時間とお金をほとんど同義のものとして考えがちになっている。

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