2018/3/19〜21の3日間で行われた中国・深圳の工場見学ツアーニコ技深圳観察会の1日目のレポートです。
このツアー記のもくじはこちらです。
8:30に深圳の電気街である華強北のスターバックス前に集合しました。出発は9:00ごろ。貸切バスで移動します。
1件目 9:50 seeed 润恒鼎丰产业园
seeed
PCB基盤を作っている会社で、その製造工程を見学しました。業界では2番手くらいの有名な会社だそうです。
労働環境としては比較的きれいなほうで、きちんとホコリ対策してたり、見学者には防塵服を着用させてました。
ハードウェアの製造工場は一般的には千個とか1万個くらいのロット数からの受注が基本ですが、この会社ではもっと小ロットからの製造が可能となっています。ハードウェア系のスタートアップの強い味方になりそうです。
工場内はところどころ機械化されてましたが、製造行程のつなぎの部分は人力で部品を取り付けたり、はんだ付けしていました。小ロット生産では機械化じゃなくて、こういう人力による小回りがきく製造フローが必要になってくるんだと思います。
2件目 11:00 JENESIS 創世訊聯科技(深圳)有限公司
日本人社長である藤岡さんの会社。従業員は中国人。
中国の安さとスピード感を武器に、日本の会社相手にタブレット端末などの特注ハードウェア製品を作っています。
例えば、タブレット端末を使ってサービスを展開したいが特定の機能しか使わない、既存の製品を使ったのではコストがかさむといったニーズがある場合、機能を限定して安価なタブレットを作ればコストを削減できます。そういう要求に対応しているそうです。
従業員は女性が多く明るい職場でした。「男性はだらしない人が多いから女性の方が良い」と突き刺さる言葉を聞きました。
離職率も悪くないそうです。福利厚生や、長期休暇の間でも給料を保証するなど、他の中国企業よりも良い待遇をしているのが秘訣みたいです。そのあたりは日本人社長らしいきめ細やかさや従業員を大切にする姿勢を感じました。
ここは手作業での組立が中心で、大ロットというよりは小ロットの生産向きな感じがしました。マス市場向けの汎用製品を作るというよりは特定企業のニーズに特化したものが多かったです。
社長みずからプレゼンしてくれたり、工場ランチをごちそうになったりとても良くしていただきました。
ランチは中華料理でしたが、これも「同業他社よりよいランチを出していると思う」とのことでした。確かにおいしかったです。現場の人と同じ食事をとれるというのは、そこで働いている人と同じ目線で時間を過ごせるのでとても貴重な体験でした。
社長の藤岡さんが書いた本がとても興味深い内容でした。私も以前に読んで感想を書いてます。
書評:”「ハードウェアのシリコンバレー深セン」 に 学ぶ” 現地のナマの声と、常識を打ち破る強さを与えてくれる本 | うえむ日記(仮)
3件目 13:30 金型工場1 深圳市硕峰科技有限公司
先程訪れたJENESISと取引がある中国人経営の金型工場を2つ見学しました。
この工場は「汚い」「うるさい」「いい加減」という「中国はこうでなくちゃ」ていう要素を裏切ることなく備えた「ザ・中国の工場」て感じで逆に安心感がありました。
見学したときは電源プラグを作ってるようでしたが、原材料は野ざらしで置きっぱなしだったり、誰かがバケツの水をこぼしたようで床がビショビショだったりして、追い求めていた中国の混沌感がすごく出ててとても刺激的でした。
劣悪な環境ですが、たぶん安い電源プラグをつくるにはこれくらいのいい加減さでいいんだと思います。下手に品質を高めようとすると製品の価格が高くなってしまい、
「たかが電源プラグに高品質のものを作るのはバカげてるよね」
となるからです。こういうものは安く作れないと意味がありません。
でも本当にいい加減な工場だと、従業員もスマホいじりながらやる気なさそうに作業するみたいなので、それが無いだけここは従業員のレベルが高い、ということだそうです。
しかし、従業員はこの騒音の中で耳栓もせず、素手で作業してて大丈夫なんかな…てちょっと心配になりました。
4件目 14:30 金型工場2 深圳市欣全鑫五金制品有限公司
ここも、暑いしうるさいし「こんなところで働くのいやだなあ」て感じの工場でした。
工場の窓あけっぱなし、見学者は防塵服など身に着けなくてOK、というアバウトさです。本来ならばホコリが混入しないようにゲートを作ったり衣服に気を使ったりします。
そういうことをしないので「ちょっとくらい不良品あってもいいよね」ていう経営哲学が感じられます。
パソコンのキーボードの部品を作っているようでした。これが別のところで組立られてキーボードとしてヨーロッパの市場で1万円〜1万5千円程度で販売されるそうです。
5件目 15:00 德普沙井电子城
深圳の郊外にある、電子部品売り場が集まる建物に行きました。
一見、華強北の電気街のように小売店が集積しているだけの場所ですが、この電子部品市場は郊外型であり工場に近い場所にあるので、工場関係者をターゲットにした大きい部品や駆動部品などが多い印象でした。
ここに何か物を買いに来る一般人はあまりいなかったです。店側もこれだけでは経営できないので、多分大口の業者から直接注文を請けているんでしょう。
私たち見学者は30人にもおよぶ数だったので、その団体が列をなしてキョロキョロしている姿は彼らにとっても珍しかったらしく、逆にこっちが見物されてしまいました。
6件目 16:30 Insta360 龙光·世纪大厦A座
Insta360
iPhoneにつける360度カメラのメーカーです。といっても工場という雰囲気はなくて、製造は外部にまかせてオフィスは企画やデザイン、ソフトウェアを開発している感じでした。
深圳の中心部に近いところにオフィスがあります。
中国ぽい雰囲気は全然なくて、AppleやGoogleみたいな欧米のハイテク会社のようでした。
きっとこんな感じで給料も良くて、ホワイトな会社が中国でもどんどん増えていくんだろうなぁという感じがしました。
Insta360は文字通り360度の風景が撮れるカメラを作っているのですが、例えば自撮り棒の存在を消した画像を作れたり、手ブレ防止がついていたりと先進的な機能をつけています。
この企業は3年で従業員200人の規模に急成長しており、深圳ドリームというべき状況が生まれています。社長も超若い。
私自身がソフトウェア技術者であることもあり、ソフトウェア開発もしているこの会社が個人的には一番興味深かったです。
特筆すべきは
「この深圳でイノベーションが始まっている」ということです。
単なる下請け工場だった時代を経て、深圳はゼロからモノを作ることができるイノベーション都市へ変貌を遂げています。
「この都市が、将来ハイテク分野で世界をリードしていくのではないか?」という萌芽を垣間見ることができます。
ただ、深圳の会社というイメージから
「社員は超スピードで働いてるんだろうなぁ。手が2倍速くらいで動いているんだろうなぁ」
と思っていましたがそんなことはありませんでした。
私達がソフトウェア開発をするペースとあまり変わらない印象でした。
私の勝手な想像ですが、日本の会社と比べて承認決定プロセスが短い、無駄なテストや品質を過剰に追い求めたりしない、という特徴があるのではないかと思います。
そういう「コードを書く作業」以外の無駄なプロセスを圧縮すれば、工期は半分になったりします。
Insta360のスゴさはこの動画を見れば分かると思います。
参考記事
中国深センから映像革命を起こす26歳「Insta360」創業者の野望
19:30 夕食
その後は白石州という場所で夕食をいただきました。
40〜50人くらいの規模の数を、予約なしで受け入れられる飲食店のキャパすげえ。中国では大人数でもすぐに宴会を開けます。