作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
twitter:@uemera facebook:uemura

スティーブ・ジョブズの流儀


「スティーブ・ジョブズの流儀」を読みました。

あちこちで紹介されている本です。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/a98eea18335b600c934ceca892bae491
http://chalow.net/2008-11-02-1.html
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51133243.html

アップルのことはあまり詳しく知らなかったけど、この本でだいぶん詳しく知ることができました。

私が通っていた大学の研究室では、Windows機とUNIX機しか触ったことがなく、プライベートでもMacは買ったことないので
アップル製品との接点はあまりありませんでした。
しかし、工学系以外の大学の先生はMacを使っている人が多く、大学生協ではWindows機と同じくらいのスペースを
Macに割かれていたので、大学構内におけるMacのシェアはきっと世間一般のそれよりも高いんだろうなぁ、という感覚
はありました。
もう10年以上も前の話ですけど。
でもあのころはスティーブジョブズがアップルに復帰する前であり、アップルの経営はそうとうヤバい状況に陥っていたんですね。

大学時代にはアップルフリークと呼べるような熱狂的なファンが近くにいて、アップルの帽子なんかをかぶってたんで
個人的には「イタいなぁ…」と感じていました。
そんなフリーク的なユーザーしかいないような世界に足を突っ込むのも嫌だったので、Macはなんとなく使わないまま
過ごしました。
iMacが出たときは、工学系の学生がそんなキャピキャピしたデザインのマシンに触れると自分の価値が下がるような
気がして(笑)、なんとなく敬遠していた節がありました。

今となってはMacだけではなく、iPodメーカーとして有名になったアップルですが、現在にいたるまでに、IT業界の大
きな波にもまれてきたこと、スティーブジョブズの独創的で人並み外れた能力でアップルを立て直し成長企業に返り
咲かせたことの経緯が、本書に細かく書かれています。
ただ、あまりにもオリジナリティあふれる歴史であるため、私たちの身の回りにある会社にとって参考にはならない、
ということになってしまうんでしょう。

以下、印象に残ったところを引用:

初代iMacの電源コードはその本体と同じく半透明で、中により線が見える。一見無意味な細部にまでこれほど細かな注意を払うメーカーはそうはいない。
だが、そのことがアップルを他社より抜きんでた存在にしている。アップルの製品にはそんなちょっとした味わいがある。
「私たちがアップルでしている仕事に特徴的なことをひとつ挙げれば、どんな細かい点にも目をむけるということです」
「それは大量生産というより手技に近いと言われることがあります。でもそれはとても大切だと思うんです」

ジョブズはペプシコーラの社長ジョン・スカリーを口説き落とそうと何か月もがんばっていた。だがスカリーは納得しなかった。
ついにある晩、ジョブズはこの年上の男に向かって平然と言い放った。
「残る一生ずっと砂糖水を売っていたいですか、それとも世界を変えたいですか?」
それはおそらく現代ビジネス史上、最も有名な「挑戦状」だろう。

ジョブズにとってイノベーションとは創造性である。独創的な方法で物事を組み合わせることである。
「創造性というのは物を結びつけること(コネクション)にすぎない」とジョブズは語っている。

発明することよりも、すでにある技術を組み合わせることで新しい製品が生まれる、ということです。
ノートパソコンでよくつかわれているタッチパッドを、オーディオプレイヤーに実装することでiPodは創造的な製品になりました。

すべてをコントロールしたいというジョブズの願望は哲学的でもあり現実的でもある。コンピュータや
スマートフォンのような複雑なデバイスを真の大量製品にしたいと考えている。
そしてそのためには、消費者からもデバイスの支配権を奪う必要があると信じている。
iPodが良い例だ。MP3プレイヤーを扱う複雑さが消費者には見えなくなっている。iTunesやiTunes
ストアがそれを引き受けてくれるからだ。
確かに消費者はお好みのどんなオンラインストアからでも曲を買えるわけではない。
とはいえ、曲を転送するときにiPodがフリーズすることはない。これが現実的な側面である。ハード
ウェアとソフトウェアの緊密な一体化が、予見可能で扱いやすいシステムを生む。
クローズドシステムは選択の幅を狭めるが、安定感と信頼性は増す。
オープンシステムはそれよりはるかにもろく、信頼性が低い。これは自由の代償である。

エンジニアにとっては、オープンシステムであることの方が重要です。
機械いじりをする楽しみが増すからです。そして自分好みにカスタマイズできる余地があるからです。
しかし、買った製品をただその目的通りに使いたいだけならば、オープンシステムはむしろデメリットになっちゃうんですね。

RealPlayerとか、QuickTimeとかってインストールすると勝手にタスクトレイに常駐して居座って大きな顔をするので
嫌いなのですが、それはたぶんエンジニアの視点なんだと思います。
クローズドな仕組みを作るための一つの方法なんでしょう。そしてそれはエンジニア以外の多くの人にとって望ましい
仕組なんだろうと考えるようになりました。

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