作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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さらばアメリカ


さらばアメリカ」を読みました。

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大前氏のブログや、コラムはよくチェックしてます。
体が2つ以上あるんじゃないかと思うくらい、日米問わずいろんなところで執筆してるし、会社も経営してます。
そしてものすごい量の情報をINPUTしてOUTPUTしています。超人的です。

大前さんの本を読むのは初めてですが、思っていたよりとっつきやすく、楽に読めました。
ひっかかるところが少なく、ぐいぐい読んでいけるのです。そして「早く最後まで読みたい」という衝動に駆られます。
しかし楽に読めるといっても内容が薄いわけでもなく、十分に味のある内容でした。
これは恐らく彼の文才の賜物なんでしょう。それか私が彼の著書と相性がいいか。
経済学者的な語り口ではなくて、普段私たちが目にするニュースの視点から、行間の意味とか影に隠れた経済・政治の事情などを大前流に鋭く指摘しています。いつも思いますがこの分析力はさすがだと思います。

「さらばアメリカ」は著者が40数年の間、400回にも渡って渡米し見てきた見聞録の集大成のようなものです。
400回というのも変態的数字です。月1回くらいのペースでアメリカに行ってるということですよね。

アメリカが繁栄を謳歌してきただけではなく、敵も多く作ってきたのは、ほかならぬ「一国主義」であると言います。
それは他の国と協調や共存の道を模索せず、「自分たちの一国さえ良ければよい」という傲慢な考え方です。
それを「クラスの中のいじめっ子」とたとえています。

ジャーナリズムの章では、その事が垣間見れるいくつかのフレーズを紹介すると、

アメリカではメディアも「一国主義」に凝り固まって、アメリカを礼賛し世界を舌鋒鋭く非難するという態度の人たちが主導権を握って新聞や雑誌を作っているから、世界の国々から見ると頭にくる記事がたくさん出てくるのだ。日本、中国、韓国、ASEAN諸国についてもそうだし、中近東になったらまったくお話にもならないぐらい偏向した記事を、アメリカの記者たちは平気で書いてしまうようになったのである。

ブッシュはイラク開戦の理由として、大量破壊兵器の保有とアルカイダとのつながりを挙げた。しかし、それは二つとも嘘だったことが後で明らかになったし、ブッシュ自身も最後の記者会見でそれを「残念なミステイク」と認めている。まさに”後の祭り”だが、その可能性を事前に指摘できなかったことは、アメリカのジャーナリズムが視野狭窄に陥っていることの証左である。

CNNには偏向した「CNN的世界観」がある。それは言い換えればアメリカ中心の世界観であり、CNNはアジアのニュースを報道する資格がないのではないかと思うほど、アジアをよそ者扱いしている。つまり、日本についても、韓国についても、中国についても、その国の特殊な部分だけ、アメリカと違うところだけを象徴的に報道する。それも冷静に報じるのではなく、驚愕の事実であるかのごとく大げさに報じるのだ。
たとえば、日本に関する報道は、ほとんどマルコ・ポーロが「東方見聞録」で語っているようなものだ。未だに「すべての屋根が金で葺かれているいる黄金の国ジパング」の域を出ていない。相変わらず「フジヤマ、スキヤキ、ゲイシャガール」的な未知の国を見る世界観が支配している。そういうCNNjの番組は、アメリカではほとんど放送されていないはずだから、いったい誰を視聴者として想定して制作しているのか不思議でしょうがない。

アメリカ回復のキーは、この「一国主義」をやめ、他国や世界のことを思いやり共存・共栄の道をいかに探っていくかによるということですが、オバマ政権下でもこれは難しいだろう、と述べています。

大前さんの本はなかなかおもしろかったので、同じ時期に出たもうひとつの本「知の衰退からいかに脱出するか」も読んでみようかと思っています。

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