作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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タダが生むブラックホール! 【書評】FREE フリー <無料>からお金を生み出す新戦略


「FREE」を読みました。

 

インターネット時代、Googleはじめ多くの企業が自らの成果物をフリーで提供しています。

インターネット時代の全盛は、フリー全盛の時代でもあったのです。

そのフリーのメカニズムを分析した本です。

 

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  グーグルはアメリカでもっとも儲かっている企業のひとつだし、リナックスの生態系は300億ドル産業だ。私が無料のワイアレス・アクセスにつられて利用しているこのコーヒーショップでは、三ドルのラテが飛ぶように売れている。

  ここに無料(フリー)のパラドックスがある。料金を取らないことで、大金を稼いでいる人々がいるのだ。すべてとは言わなくても、多くのものがタダになっていて、無料化無料同然のものから一国規模の経済ができているのだ。それはどのようにして起こり、どこへ行こうとしているのだろうか。

  これが本書の中心となる疑問だ。

 

 

 

有料に対する無料(フリー)があっとうてきな有利をもたらすと思うのは、以下に書いているように、「フリーは何も失うものがない」という安心感です。たとえ1円でもお金が必要な場合はもはやフリーではなくなり、私たちの心の中に心理的な障壁ができてしまいます。

「タダだからとりあえずもらっとく」感覚が、以下に強力なものか。それは心理学実験でも明らかにされています。

  たいていの商取引にはよい面と悪い面があるが、何かが無料!になると、わたしたちは悪い面を忘れさり、無料!であることに感動して、提供されているものを実際よりずっと価値あるものと思ってしまう。なぜだろう。それは、人間が失うことを本質的に恐れるからではないかと思う。無料!のほんとうの魅力は、恐れと結びついている。無料!のものを選べば、目に見えて何かを失うという心配はない(なにしろ無料なのだ)。ところが、無料でないものを選ぶと、まずい選択をしたかもしれないという危険性がどうしても残る。だから、どちらにするかと言われれば、無料のほうを選ぶ。

 

 

フリーを支える社会。フリーを提供するものは、それは単に金銭的な報酬以外に、自己実現や誇りを得られることに満足感を得ています。

だからこそフリー社会は発展します。

  私が(ウィキペディアで)魅了されることのひとつは、もしも1950年、60年、70年、80年、90年、さらには2000年当時の経済学者に「ウィキペディアは成功するか?」と尋ねたら、ほとんどの人が「いいや」と答えただろうということだ。彼らはこう言ったはずだ。「無理だね。なぜならそれをやっても何も栄誉が得られないからだよ。利益もない。誰もがただ乗りするだろう。ウィキペディアがあったら読むけれど、フリーライダーの問題があるのですすんで項目を書く人間はいないはずだ」。でも、彼らはまちがっていた。フリーライダー問題を乗り越えるほどの強い喜びがあることをわかっていなかったのだ。

  要するに、私たちが報酬なしでも喜んですることは、給料のための仕事以上に私たちを幸せにしてくれる。私たちは食べていかなければならないが、マズローの言うとおりで、生きるとはそれだけではない。創造的かつ評価される方法で貢献する機会は、マズローがすべての展望の中で最上位に置いた自己実現にほかならず、それが仕事でかなえられることは少ない。ウェブの急成長は、疑いなく無償労働によってもたらされた。人々は創造的になり、何かに貢献をし、影響力を持ち、何かの達人であると認められ、そのことで幸せを感じる。こうした非貨幣的な生産経済が生まれる可能性は数世紀前から社会に存在していて、社会システムとツールによって完全に実現される日を待っていた。ウェブがそれらのツールを提供すると、突然に無料で交換される市場が生まれたのである。

 

 

「デジタルのものは、早かれ遅かれ無料になる」と本書に書いていますが、デジタルのものは確かに年を追うごとに値段が下がっています。

そして、それは限りなく無料になり、やがてどれだけ買っても、どれだけ使ってもなくならない無限のリソースを手に入れることができるようになります。

  私たちの脳は、ムダなことに抵抗を感じるように配線されているようだ。だが、それは私たちがほ乳類だからであり、自然界では比較的珍しいことだ。ほ乳類は、動物の世界でももっとも子どもの数が少なく、その結果、私たちは子どもが大人になるまで守るために膨大な時間と手間を費やす。人間ひとりの死は悲劇であり、ときには残された者が二度と立ち直れないこともある。そして、私たちは個人の命を何よりも大切にしている。

  そのため、私たちはムダに関して非常に発達した倫理観を持っていて、気に入らないおもちゃや食べ残しを捨てることに罪悪感を覚える。その感情にちゃんとした理由がある時もある。浪費によって社会的コストが増えることを理解しているときだ。だがたいていは、たんに私たちのほ乳類としての脳が、罪悪感を覚えるようにプログラムされているからだ。

  自然界の他の生き物はそうではない。クロマグロは一回の産卵で1000万個もの卵を放出する。成体になるのは、おそらくそのうちの10個くらいだ。ひとつが生き残るために100万個が死ぬ計算になる。

 

会社内で使っている供用サーバーの領域が足りなくなった場合、よく社員全員に「要らなくなったファイルを消せ」号令がかかることがあります。ストレージの単価が下がっているのにもかかわらず「もったいない」意識が生み出すこの行動は、人件費や労力を考えると非合理的な行動をしていることになります。

「やがて無限になる空間」をみみっちく使うのは、もともともったいない意識を備える人間にはとりづらい選択ですが、潤沢にあるもの、やがてフリーになるものは、気にせずでっかく使おうぜ!でいいんじゃないかと僕も思います。

もちろん、有限であることが分かっている資源は、ちゃんと分別をつけないといけませんけどね。

 

 

私は、フリーソフトを作ったり、フリーで勉強会を開催したりしたことがあるので、フリーの世界にそれなりに浸かっていることになると思います。

最初は「タダであげるなんてなんてもったいない!」と思いました。でもそれは単純に金銭的価値で測ろうとするからそういう結論になっちゃうわけで、それ以外の満足が得られると分かっていれば、「どうぞタダで持っていってください!」と声を大きくして言えると思います。

 

そういう「金銭以外の価値」というものが、やってみるまでなかなか見えにくいんですよね。私もそうでした。

今では、フリーでいろいろ提供したおかげで、称賛の言葉をもらえたり、お友達がいっぱいできたり、お仕事をもらえるようになったりしました。フリーなものを提供することによって得られたこれらの対価は、お金で測ることができません。

そういう意味で、確かにやりようによっては、フリーから上昇スパイラルを生むことは可能だと思います。

 

 

たまたま最近見た記事で、興味深い記事があったので紹介します。フリーの話題にも少し触れられています。

 

東大卒イケメン社長「YouTubeは米国でヒーロー、Winnyは犯罪者」「日本から次のGoogleは出てこない」
http://alfalfalfa.com/archives/393438.html

ホリエモンは「カネで買えないものはない」と言った。猪子も開発のために「カネはムダにあったほうがいい」と思う。しかし、「残念ながら、カネで買えないものが増えていくんですよ、情報化社会では」。

たとえば、世界最大のマイクロソフトが強敵・リナックスを買収しようにも、リナックスは企業でさえない。「ブリタニカ」を蹴散らしたウィキペディアも、買収できない。

「日本メーカーって、物理的なものを作る会社。でも、今の感動って、インターフェースにしろ、コンテンツにしろ、ソフトウエアの領域にある。ハード中心の日本メーカーの開発プロセスには乗らない。10年前、携帯電話でソフトメーカーのアップルにやられるなんて、誰が思いました。日本メーカーの先行きはもうないです。全部、滅ぶんです。

 

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