作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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予想どおりに不合理


「予想通りに不合理」を読みました。
こちらで絶賛されていた本です。

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人間というものは知的で高度な生き物であるがゆえに、それが起こす行動は合理的であるに違いないと思いがちですが、
人間のいたるところに非合理性が見え隠れし、実は大きな影響を私たちに与えているのだということを本書は教えてくれます。

たとえば、あなたがレストランのオーナーなら、それが高級レストランではなくても、値の張るメイン料理をメニューに載せておくと良いと著者は言います。

たいていの人は、メニューの中でいちばん高い料理は注文しなくても、つぎに高い料理なら注文するからだ。
そのため、値段の高い料理を一つ載せておくことで、二番目に高い料理を注文するようお客をいざなうことができる。
(そして、二番目に高い料理からよりたかい利ざやを確保できるよう調整しておくことができる)

 
第二次世界大戦直後、まだ流通販路がなく、需要もほとんどなかった黒真珠。売り込みもうまくいかず黒真珠の商売を
やめてしまった商売人が、伝説の宝石商に出会います。
その宝石商はニューヨークの五番街にある店舗のショーウィンドウに黒真珠を飾って、法外に高い値札をつけました。
ダイヤモンドとルビーとエメラルドをあしらったブローチといっしょに黒真珠が堂々と光り輝いている写真を雑誌の広告に出しました。

ほんの少し前まで、ポリネシアの海中でロープに連なったクロチョウガイがひっそり育てていた黒真珠が、あっというまに、ニューヨークでも指折りの裕福なセレブ達の
すらりとした首にさげられて、マンハッタンを闊歩するようになった。
宝石商は、価値のはっきりしなかったものをとんでもない高級品に変えてしまった。

 
著者は大学の講義の中で、学生たちに3つの詩を朗読することを宣言します。

短い詩、中くらいの詩、長い詩を一篇ずつ読む予定でいる。
その前に学生たちにひとつ質問をした。
半数の学生には、仮定の話として、10分間の朗読に10ドル払う意思があるかどうかを尋ねて答えを書いてもらった。
あとの半数には、私が10ドル払ったら10分間の朗読を聴いてもいいかどうかを尋ねた。

仮定の質問で、わたしに10ドル払うかどうか答えた学生たちは、なんと実際にお金を出す気になっていた。
短い詩に1ドル、中くらいの詩に2ドル、長い詩に3ドル余り支払うと申し出た。
だが、10ドル支払うのではなく、わたしから10ドル受け取るとアンカリングされた学生はどうだろう。
予想通りかも知れないが、学生たちは支払いを求めた。
平均して、短い詩を聴くのに1ドル30セント、中くらいの詩を聴くのに2ドル70セント、長い詩をがまんするのに4ドル80セントを要求した。

どちらのグループの学生も、わたしの詩の朗読がお金を払ってでも聴く価値のあるレベルなのか、お金をもらえるなら聴いてやっても
いいレベルなのか分からなかった。ところが、わたしにお金を払うべきか、あるいは自分が受け取るべきかという第一印象がいったん形成されると、
さいは投げられアンカーが定まる。

そこには一種の刷り込みが存在すると著者は言います。
生まれたての雛が最初に見たものを親と思いこむのと同じように、人間にも最初に決められた価値観に追従する傾向があるというものです。

この本で紹介した研究からひとつ重要な教訓を引き出すとしたら、わたしたちはみんな、自分がなんの力で動かされているかほとんどわかっていないゲームの
駒である、ということだろう。私たちはたいてい、自分が舵を握っていて、自部がくだす決断も自分が進む人生の進路も、最終的に自分でコントロール
していると考える。しかし、悲しいかな、こう感じるのは現実というより願望 - 自分をどうんな人間だと思いたいか - によるところが大きい。

自分が起こす行動は、はたして理にかなっているのか?ということを深く考えるきっかけになりそうな本だと思います。
人間っておもしろい動物だなって改めて考えさせられます。

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