作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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半年間のサーバーインフラエンジニア生活を振り返る


2011/8~2012/1の半年間、大手IT企業の下請けインフラエンジニアとして働きました。
この間でいろいろ感じることがありましたので記録しておきたいと思います。
このまま何も残さないのはもったいないと思いましたので。
 
プロジェクトに参入した直後のブログエントリも過去に書いています。泣きごと言ってますが…w
7月の終わりからサーバーインフラ関連のフルタイム案件に従事しています。 » うえむ日記

 
 
サーバーインフラの仕事は昔やったことがあったのですが、かなりひさしぶり(7年ぶり)だったので、インフラエンジニアの流儀も勝手もほとんど忘れていました。
そもそも、その7年間に技術も進歩しています。ですので昔のことを覚えていたとしても通用しないことが多いです。
それなのになぜかインフラエンジニアに返り咲いてしまいました。
なぜ、僕みたいなブランクが長い人間を雇い入れる必要があったのか、と不思議な気持ちでしたが、それだけ人材不足ということなんでしょう。
それとも安い値段で請け負ってくれる人材がいないからなのか…
 
実際に働き始めて、驚くことがいっぱいありました。
というかつらいことがいっぱいでした。
 
 

社員と下請けの格差が存在する

もちろんそんな格差があることはどこの現場でも当たり前なんですが、いままで経験した職場とは、また違った格差があったので戸惑いました。
賃金とか福利厚生面で差があるのはまぁ仕方ないですが、社員と同じプロジェクトを力をあわせて進めているのに、社員と同じ設備が満足に使えないという状況でした。
そうなると、どうしても社員との生産性に差がついてしまいます。
 
しかし、そんな事情は実際は鑑みられず、各個人それぞれに与えられたタスクは平等なので、だれしも同じ生産性を求められるし、社員も下請けに対して自分たちと同じくらいの成果を求めてくるので、とてもつらい状況でした。
社員と下請けの労働単価は違う(もちろん下請けの方が安い)のだから、コストパフォーマンスで言えば下請けは社員と同じパフォーマンスで働かなくてもいいのでは?と思ったりもしますが、一度現場に入ると、そういう理論は通用しません。
そういうわけで、このゆがんだ状況を打開しようと思うと、どうしても時間でカバーしていくしかありません。
ということで下請けだけワーク過剰になっていく状況が生まれました。
 
ちなみに設備面での格差とは以下のようなものです。
・社員は社内無線LANを使えるが、下請けは使えない(有線LANのみ)
・提供されるパソコンが社員のものより旧機種であり動作がトロい。
・下請けに貸与されたパソコンは社外持ち出し禁止なので、データセンター作業など社外へ
 行く用事があるときは別のPCを持っていく必要がある。(毎回データの移し替えとかしないといけないので面倒)
・社員のイントラネットワークには、社員は自宅からでも繋げられるが、下請けは自宅から繋げられないので
 休日作業においてはわざわざ常駐先の会社に出勤して社内ネットワークに繋げる必要がある。
 
 

大企業も厳しい状況に追い込まれている

7年前、同じような下請けという立場で、プロジェクトに参画したことがありました。
その当時と今と比べてみると、大企業といえど明らかに余裕がなくなってきているというか、いろいろと苦しい状況になってきていることを感じます。
これは多分、数年間のブランクがあった僕だからこそ分かったことで、連続勤務していて緩やかに締め上げられている社員の立場からだと気づきにくいことかも知れません。
 
・一人あたりの仕事量が多くなっている。
 昔は5人くらいで10台のサーバーの構築や運用をしていましたが、今回は数人で
 60台くらいのサーバーを構築しないといけませんでした。
・他のプロジェクトと掛け持ちの社員が多くなっている。
 社員は2プロジェクトをかけ持っている人が多いです。それだけ仕事しないと稼げなくなっています。
 
以前と比べると、会社の体力がなくなってきています。
1プロジェクトあたりの案件受注額が下がってきているので、社員の高い給料を維持しようと思うと、仕事をかけもちさせたり、より多くの仕事量をさせたりしなければならなくなっています。
単純に一人あたりの作業量を増やすことで、会社を維持しようとした結果そうなっているように感じます。
 
日本の厳しい雇用規制の下では、社員の給料を減らしたり、解雇したりは簡単にはできませんので、苦しい会社の台所事情を改善するために、やはり1人あたりの作業量を増やすのが一番手っ取り早いのでしょう。
 
企業が利益を上げ続けるために取れる、それ以外の解決法としては、
・作業効率を上げて、同じ時間でたくさんの作業をこなせるようにする
・もっと付加価値の高い仕事をする
くらいしかありません。
しかし、これらにはなかなか手を出せない大企業の悩みがあります。
 
 

作業効率を上げられない大企業

大手IT企業だから最先端なことをやっているだろう、すごいことをやっているだろう、というとそんなことはありません。
歴史が長い会社は、過去の資産をうまく捨てられず、簡単に新しい技術に移っていけない事情があったりします。
 
・今でもWindowsXP とOffice2003の環境を使用している
 いいかげん早く新しい環境に移行して欲しいと思いますが、移行となると旧環境と新環境の共存期間
 が発生してしまうので、例えば操作手順の説明が1通りではすまなくなる、などで余計なコストが
 かかることになります。
・LotusNotesをコミュニケーションツールとして使っていますが、前近代的ですこぶる使い勝手が悪い。
 メールの保存領域が200MBしかないので、すぐに容量がいっぱいになってしまいます。
 社内掲示板の領域も200MBなので、それを超えると掲示板に書き込みできません。
 
最近流行っているクラウドを利用すれば、コミニュケーションの取り方や、ファイルの扱い方などでもっと効率化できることもあるのではないかと思いますが、それはそれでセキュリティが心配だとかで受け入れられないのでしょう。
新しいツールの使い方をすべての社員に教育しないといけないのもコストがかかります。
オンラインでつながっているメンバー同士で同時にドキュメントを編集できたら便利なのにそれができません。
メールソフトは強制的にNotesを使わされますが、このソフトの時代遅れ感がハンパなくて、窮屈な使い方しか出来ません。
 
仕事の進め方も古いままで、実際のサーバー設定作業に先駆けて設計書を量産するので、その作成工数とメンテナンス工数が甚大です。
顧客がそこまでのドキュメントの納品を求めていなくても、いままでの流儀でやってきた請負会社のやり方があるので、手間がかかっていても誰もNoと言えません。
プロジェクトの単価が高かろうが安かろうが「最初から作るべきドキュメント」として組み込まれてしまっています。
例えば数十台のサーバーを構築する場合、共通の設定なのでマスター1つメンテしておけば足りるものがありますが(例えばNTPの設定など)、
サーバー設計書はサーバー毎に数十個用意しないといけないので、同じ内容なのに多くの設計書をメンテしなければならなかったりします。
 
 

イノベーションを起こせない大企業

さきほど書いたように、大企業ほど過去の資産やしがらみをひきずってしまう傾向にあるので、全く新しい価値を生み出すイノベーションは起こしにくいことが分かります。
クラウドが流行ってきている今、何億もするサーバーをオーダーメイドで作っていられる時代もそう長くは続かないでしょう。
ログの保管とか、不要ファイルの定期削除とか、DBのバックアップとかを今は個別に設計して作っていますが、これってほとんどどんなサーバーでも要件は同じはずなので、雛形を作っていれば本来はいちいち工数かけて個別に作り込む必要はありません。
しかし今のオーダーメイドの仕組みだと、顧客に請求できる工数が増えれば増えるほど儲かるので、そのへんあまり効率化せずに力作業でこなしています。
 
 

これからサーバーメーカーは淘汰されていくか

僕はかつて携帯電話メーカーの組込みシステムの仕事をしていました。その携帯電話メーカー(鳥取三洋)は京セラに統合されました。
その後携わっていたカーナビのメーカーも、神戸の工場は撤退が決まっています。
いずれもその業界のトップシェアをもつメーカーではありません。
トップの企業は、業界自体が衰退してもそのまま逃げ切れることが多いですが、後塵を拝する2位以降の企業はトレンドの波に飲まれやすく、時代が変わるとすぐに消滅の危機にさらされます。
僕が勤務していたサーバメーカーも、日本ではトップシェアを持っていません。
本家米国では業績は好調ですが、日本法人はどんどん売上が下がってきているので、この先何も変われないままだとまた大幅なリストラか、企業まるごと日本から撤退する可能性もあるのではないかと思います。
 
ちなみに日本でのサーバーシェアトップの富士通に関する記事が最近出ていました。
 
富士通の3万人SE職務転換大作戦は成功するのか? – GoTheDistance
http://d.hatena.ne.jp/gothedistance/20120122/1327208557
 
インフラエンジニアも転機を迎えているのは間違いないと思います。
 
ああ、僕はどうやって生きていこう…

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3 Replies to “半年間のサーバーインフラエンジニア生活を振り返る”

  1. どこも大変なんだな〜。
    システム屋さんに限らず、一人あたりの仕事量は確かに増えてるしね〜。
    まぁ頑張るしかないんだけども。

    ちなみにワタシは、WindowsXP とOffice2003環境は、出来ればあんまり変わって欲しくないというユーザーです。
    いまでも大きな問題がないもん。
    もちろんエクセルが65535行とかみみっちいこと言わず、20万行のデータを扱えるようになります、とかだったら移行してもいいかな。

    大体新しいバージョンに移行するのに、データ取得用ソフトとか、その仕掛けとかの資産移行が面倒すぎるし…。
    バージョンアップの検証作業をユーザー側にさせないで欲しいというのが、うちの会社のシステム屋さんへのリクエストかな(笑)。

  2. ご無沙汰です。
    とりあえずお疲れ様です。
    それにしてもどこも大変やね
    宮っ子同士、また飲みにでも行きませんか?

  3. >やんばる
    システム環境、変わって欲しくないという気持ちは確かに分かる。
    今の仕事がそのまま問題なく続けていられる限りにおいては、変わらない方がいいだろうね。
    だけど、その思考が実は罠で、世の中はどんどん変わっていってるのに自分たちだけ変わらないままで続けているといつか置いて行かれるということになっちゃうんだよね。
    資産移行とかも必要なのかも知れないけど、もういっそのこと全部捨てちゃえば?と思ったりするわけです。
    どこの企業も資産がネックになっているんだと感じます。

    >おおに
    うん、また飲みに行こう!
    どこも大変… こないだ家電業界が一斉に赤字を発表したけど、ほんまどこもそんなんやわ。
    給料も労働時間もどんどんひどくなっていくのを感じる。
    やっぱり何か大きな樹によりかかっているだけではなく、自分でなにかビジネスを作り出さないとだめだなーって思うよ。

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