作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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4月21日


彼に会おうと思ったのは
「そのうち楽しいことがやってくるから。つらいことはいつまでも続かないから。生きていればね。」
というメッセージを伝えたかったんです。
小さなことでもいいから幸せを見つけると、その分1つのつらいことを忘れられる。
僕はそんな小さな幸せをなるべく見つけるようにして、つらいことを忘れるようにしています。
「美味しいものでも食べて、楽しく会話して笑っていよう」
それは、根本解決にはならないけど、つらいことをひとときでも忘れられるんじゃないかな、と。
あまり美味しいものも食べていない様子だったので、4/21の木曜日に彼の家に行くことにしました。

彼が、ここ数ヶ月の間に女性関係でこじらせてしまったことは、周りから見たら褒められることではありません。
彼もその罪を自覚していました。しかしそれを償う方法を見失ったまま、沼から抜け出せず病んでしまいました。

誰かが彼を救えたのか?
たぶん誰も救えなかったような気がします。
救えるとしたら、それは「彼の時間を3ヶ月前に戻すことができる者」だけです。
それができたら彼はやりなおせたでしょう。
しかし進んでしまった時計の針は、もう元に戻すことはできません。

この日の彼は無邪気でした。
(正確にいうと、躁うつ病症状のため感情を完全にコントロールできていない、という感じでした)
好きなあの子からLINEが来なくてしょんぼりしたり、彼のお嫁ちゃんとの昔の写真を見て、何かを思い出したのか急に泣き出したり。
お昼ごはんを「おいしい」と言って食べてくれたり、お気に入りの曲をかけて口ずさんだり。

そんな中、ふと部屋の隅に目をやって
「上村さん、あそこにロープがかけてあるでしょ? いつでも死ねるよう準備をしているんだ」
「死ぬのは怖くないよ?でも中途半端にやると死ねないからうまくやらないと」
「こうやってやるんだよ」
と、ロープを首にかけ、自殺するマネをしました。
「あの子といっしょに心中することも考えてる」
僕はかける言葉を探しましたが結局何も言えませんでした。

僕は彼の家で自分の仕事をしようと思って仕事の道具も持ってきたし、彼も遅れている仕事があるので、僕の方からはあまり喋りかけないようにしていたのですが、彼は饒舌に話しかけてきました。

あとになって思ったのですが、「やっぱり話し相手が欲しかったのかな?」と思いました。
彼の家は立派な一軒家で、閑静な住宅街の中にあるのですが、駅から遠くて気軽に遊びにいけるところではありません。
外部の人間とあまり会うことがない環境が、病気の進行を早め、良くない影響を及ぼしたのかも知れません。

夕方に彼の家を出ました。僕は夜にアイドルのライブを見に行きたかったのでそれに間に合うように。
彼がクルマで田尾寺駅まで送ってくれました。
「今からだと、急げば1本早い電車に乗れるから」
そう言って、クルマを飛ばしました。
別に急ぐ必要なかったのに。

駅までの道のりは5分くらい。短い時間でした。
僕は、できることならばもう少し会話したかったのです。仕事中は話しかけるのは憚られるのですが、送迎中は遠慮なく話せるので。
でも、彼にとっては十分だったのかも知れません。
「僕はもう十分楽しんだから、あとは一刻も早くキミの時間を楽しんでおいで」
そういう態度にも見えました。

駅に着きましたが、一本早い電車の到着はすぐ迫ってきていました。
僕は最後に、ちょっとあわてた感じで
「じゃ、また。生きようぜ」
と言ってドアを閉め、別れました。
彼はやさしく微笑んでいました。

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