作者:上村崇 フリーランスのIT系エンジニア
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WordPressの見積り勉強会を終えて、運営の一人として思うこと


先週(2014/1/11)のWordPressの見積り勉強会の感想です。

イベント後にも内外からいろんな考え方、意見をいただいたので、それを踏まえて自分の思いを残しておくことにします。
こんなん書いたらまた怒られそうだけど…
 

やっぱり相場って無かったんだ

各チームが作ったWebサイト構築の見積価格に大きな開きがでました。
まだ見積りをやったことが無い人に見積りを体験してもらったり、価格はともかくそのプロセスを勉強する会でもあったので、出てきた結果(=価格)のばらつきが激しくなるのはある程度予想できていました。
イベント後に寄せられた鋭い指摘を見ると、「これは実社会に通用するものではない」「現実性が無い」「考慮が足りない」というところもやっぱりあるのかなと思いました。
 
今回のイベントを通して一つ分かったのは、みなさんの間に
・見積りってこうやって作るもんだよね
・だいたい常識的にこれくらいの価格だよね
ていう共通認識が存在しない、ということです。
 
Web業界の人間が含まれる勉強会でもこうなったので、業界外の一般の人にとっては、Webサイトの制作料金なんてものはとうてい想像できない金額であるわけです。
 
この状況はなんとか改善したほうがいいんじゃないか、と思います。
一軒家を建てるコストは数千万円かかる、という相場観は業界の人間じゃなくても持っています。
「クルマを買いたい」となると、数百万円の出費になることは僕らは知っています。
もちろん100万円未満のクルマもあるし、1億円以上するクルマもあります。そういう極端な例を言っているのではなくて、普及車であるファミリーカーやセダンの場合は数百万で買えるんじゃない? と思いますよね。

 
Webサイトにはそれが無いんです。「一般的にはこれくらい」という相場が。
 
そのことを、今回の見積り勉強会で再認識しました。

 

見積りする前に、先にお客さんに予算を聞いた方がいい?

「Webサイトの制作の場合は、依頼してきたお客さんにまず予算を聞きます。それをしないと始められない」
という意見がありました。
 
なぜそういう確認をしないといけないか?
それは、お客さんとWeb制作者の間に共通の相場観が形成されてないから、「大体いくら」という落とし所を探らないといけないからだと思います。

逆にお客さんに相場観があれば、予算をわざわざ聞かなくても話は進められるわけです。

「一般的なWebサイトの場合、大体これくらいの価格で出来るよね」というのをお客さんが知っていて、制作者もその相場観を基準に見積りを作れば、お客さんが価格を見て「なんでこんなに高いの!」と仰天する事件は起きません。

 

でも現状はそうではありません。
予算を聞かずに先に見積りを作って、お客さんの思っている価格帯と大きくかけ離れる見積りが出たりします。
なので事前に予算を聞いておくことが必要なんだと思います。

 

このように、
見積りを取る際には「まず先に予算を聞く」ことが当たり前になっている節がありますが、でもそれは本来の見積りのあるべき姿ではなく、
「客と制作者の間で共通の相場観が無いから、仕方なしに先に予算感を聞いている」
のが現状だと思います。

 

見積りは本来、客の予算を聞かなくても作れます。
高い、安いを決めるのはお客さん(消費者)ですが、(オークションなど特殊な売買形態を除いて)生産者側が先に価格を提示ケースの方が多いと思います。

 

今回の勉強会は、WordPressの勉強会の一環として見積りをやりました。

マーケターとかコンサルタントが見積り勉強会をやると違った趣になると思いますが、私達がやっているのはWordPressの勉強会であり、「作る側」の人たちが集まる勉強会です。
その人達が作る見積りですから、生産者側サイドの視点で見積りが出来上がってしまうのは仕方がないことです。
そして勉強会ですから「勉強したいから来ている」のであって、勉強が足りてない発展途上の人たちが多く含まれているので、もちろん完璧な見積りなんて出てきません。

 

その上で、
「こんな見積りおかしいよ」ということであれば、ぜひ僕らを消費者目線を持つ見積りの勉強会に誘ってもらえればと思います。
または、ちゃんとした見積りができる「お客さん目線を持つ人」が僕らの勉強会に来て指導してくれれば、こんなに嬉しいことはありません。

 

相場はあった方がいい

相場の話に戻します。
 
勉強会を開催して「Web業界には相場というものが無いね」ということに気づいたわけですが、
じゃあこの相場は有った方がいいのか? 無くてもいいのか?
 
意見が分かれるところだと思いますが、僕は「相場はあった方がいい」と思います。
 
その方が消費者と生産者のパワーバランスが公平になるからです。

先ほどの「まず先に客の予算を聞く」見積り方式の場合、お客さんに料金表を見せず、制作者サイドだけで見積りを組み立てるので、お客さんは制作者の言いなりになりがちです。
「制作者側の後出しジャンケン」になりますので、制作者側が有利です。
 
例えば、客によって制作者が見積りの価格を変えることができます。
お金持ちの客だったら、たくさん儲けられるようにするため制作者側が見積り額を高めに設定することもできるでしょう。
また、「本当はもっと高いんですけど、あなたにだけ半額で見積り出しました!」という特別感を演出することも出来るでしょう。
それは、これが「相場を制作者側がつかんでおり、客はその言いなりになるしかない」方式だからです。
 
一方、制作料金がオープンにされていて、例えば「1ページ=○円」「トップページデザイン料=○円」という制作単価テーブルがあって、客が先に予算を告げなくても自分で積み上げて価格を計算できる場合はどうでしょう?
この場合は、成果物の対価としての価格がはっきり決まっていますので、お客によって価格を変えるということはできません。
また、「この価格はあなただけの特別なものです」というやり方はできません。

しかし消費者にとってはメリットだと思います。
「ほんとうはもっと安いのに高額な見積りを突きつけられているんじゃないか」という心配をしなくて済むからです。不公平感も無くなります。
 
僕はこの明朗会計こそがお客さんに優しい見積りだと思っています。
「先に客に予算を聞く」方式は、客の懐具合を聞いて、それにベストマッチする見積りを提案できるので、客にもメリットがあると思いがちです。
しかし、不明瞭なこのやり方より、明朗会計である「料金テーブルがある」方式の方がお客さん思いであると思ってます。
もちろん「料金テーブル」を持っていても、開示していないとダメです。
「不特定多数が見ることが出来る料金テーブルがある」必要があります。

 

相場を作りたくない人たち

では逆に、「相場を作りたくない」と思っている人はどんな人たちでしょうか?
「相場を作ることができない」「相場を作ることなんて不可能だ」派の人はここでは置いときます。これはまた別の話になるからです。
 
「相場を作りたくない」人たちは、誤解を恐れずに言うと、「既得権益を持っている人」です。
もし相場が形成されると、多くの場合価格破壊が起きます。「相場を作りたくない」人たちはそれを恐れています。
 
Crowdworksやランサーズなどのクラウドソーシングが台頭してきていますが、このようなサービスが広がるにつれ、Webについても制作事例が増えて、しかも価格がオープンになりますので、
「この制作、作業はクラウドソーシングだと○円くらい」という相場が作られていきます。
そしてそれは、価格が安くなる方向へ引っ張られます。オープンなプラットフォームですから価格競争力が必要です。自然に価格は下がっていきます。

でも消費者にとっては、価格が分かりやすいし、仕事を頼みやすくなるので歓迎すべきプラットフォームだと思っている人が多いと思います。
その証拠に、クラウドソーシングの取引高は年々上昇しています。
 
「相場ができると消費者にとっては安心」というのはWeb制作に限らず、世間一般のすべての売買に当てはまります。
日本でタクシーに乗ると、ちゃんと運賃が表示されていますよね。それより高い価格を払わされることはありません。(まけてくれることはあるかも知れませんが。)
料金がわかっている(=消費者に相場観がある)ので安心です。
でも、外国で日本人旅行客がタクシーに乗るとき、そういう運賃表示がない(あるいは隠している)タクシーがあり、高い運賃をぼったくられるので気をつけないといけません。
 
この場合、料金が開示されてない(=相場がない)から、運転手が有利になります。
 
また、外国で乗るタクシーは、日本人にとって「いくらかかるのか」がよく分かりません。
日本人にとって相場感覚が無いので、たとえ乗った時の運賃表示が明瞭だったとしても、事前に「A地点からB地点まで乗るのにいくらかかるか分からない」ということが起きます。これでは財布にいくら入れておけばいいか分かりません。
 

このように、相場が無い、相場感覚が無い客は生産者側、サービス提供者側の言いなりになります。
逆に相場があると生産者側はごまかしが効かなくなったり、自分の言い値で価格をつけることが難しくなります。なので既得権益者は相場が作られるのを恐れます。

 

未成熟の業界は相場が無い

相場が無い世界は、「まだ成熟していない、発展途上の世界」です。
市場が成熟していくにつれ、価格がはっきり決まっていきます。
 

一般的に価格が開示されてない(一般庶民に相場が認識されていない)ものの例としては

1. 違法なもの(麻薬とかドラッグ、拳銃)
2. レアなもの(有名画家の絵画)
3. 消費者と生産者のパワーバランスが公平でないもの(葬式代)
4. まだ価格付けがされていないほど新しいもの(リニアモーターカーの運賃)
5. 価格をつけるのが難しいもの(世界一周旅行の料金)
 

などがあります。
 
このように、相場が決まってないのはどれもまだ成熟していない(または成熟してはいけない)ものばかりです。
消費者にとって、ぼったくられる可能性が大きいのもこういう分野です。
 
Web制作料金でいうと、現状は上記の4、5あたりだと思いますが、これらは時代が進むにつれ必ず適正な料金に近づいていくと僕は思っています。
いつまでも「価格なんて決められないだろ」と思考停止したり「相場を決めたくない」と既得権益を守るのではなくて、消費者とっても喜ばれるように「相場を形成する」流れに従った方が業界の発展にはいいと思います。
 
どの業界でも、消費者が満足してくれないと発展しません。
「価格が分からない」「ぼったくられ感がある」と不安になるような売買ではなく、消費者がもっと安心して買えるような世界になればいいなと思います。
 
 
では、Web業界で生きている制作者はどうするか? 自分の報酬が下がるのを指をくわえて見ているままで良いのか?
 
そんなことはありません。
「価格がついていない新しい技術を身につける」のがいいと思います!\(^o^)/
 
 

1/18追記

「前提の捉え方が人によって違うのだから見積額が違ってきて当然」
「スキルの低い人、勉強中の人が見積もるのだから見積額が違ってきて当然」
という意見をいただいています。
確かにそうです。なので「この勉強会をもって”相場が無い”とは言えないでしょ」という話になります。
 
すいません、説明が下手で間違って捉えられてしまっているんだと思いますが、そのポイントでの話をしているのではないのです。
 
例えば、「電車の初乗り運賃はいくらですか?」という質問をしたとします。
実際に実験したわけではありませんが、誰に聞いてもだいたい100円〜200円くらいの幅で回答してくると思います。
僕はこれが相場だと思っています。
 
回答前に「JRなのか私鉄なのか前提を明らかにしてよ」と言ってくる人もいるかも知れません。
「東京の話なの? 地方の話なの?」と言ってくる人もいるかも知れません。
でも、それは問題ではありません。前提がどうであれ、たぶん100円〜200円の幅に収まります。
そこで1000円とか10000円と回答する人はいないと思います。
 
Webサイトの制作価格は、前提によって価格が大きく変わってきます。
念のためですが、あくまで一般的なWebサイトの価格の話をしています。
・「コンテンツ量がとても多いサイト」
・「高トラフィックに耐える必要があるサイト」
・「特殊な要件が入っているサイト」
などの話は別です。それはクルマの例えで言うと普及車ではなく、スーパーカーやバスの話になります。
僕は、今回の勉強会の歯医者さんの架空案件は「普及車」にあたる一般的なWebサイトだと思っています。
(これも人によって捉え方が違うかも知れませんが)
 
なので「前提がはっきりしないと価格が出ない」という声が上がる時点で「その世界には相場が無い」と思います。
 
 
もう一つ、wordbench.orgのサイトのコメントに書きましたが、缶ジュースの価格の話です。
「缶ジュースの価格はいくらですか?」という質問をすると、「120円」と回答する人が多いと思います。
僕らは、それを街中の自動販売機で買える価格を想定して回答します。
富士山の山頂やスキー場で売っている価格で回答する人は稀だと思います。
知らず知らずのうちに、共通の前提条件がみなさんの頭の中に作られています。
なので前提条件をいちいち確認しなくても回答できます。
どんなスキルの人に聞いてもだいたい前提条件は同じになるだろうと思います。
 
Webサイトの制作価格は、人によって思い浮かべる前提がぜんぜん違うので、価格が大きく変わってきます。
前提が無いと答えられないから、「その世界には相場が無い」と感じました。